新たな一歩を踏み出した麻生久美子、“ガール”から母へ

映画.com 2012年5月23日更新

麻生久美子がキャリアウーマン!? 失礼ながらまったく想像ができなかった。本人も「そういうイメージがないことはよく分かっている」と自認するが、自身とはかけ離れたキャラクターを演じられるのも女優のだいご味だ。「ガール」の武田聖子がまさにそういう役どころで、年下の男性の部下にはき然とした態度を貫く一方、家庭では自分より給料の安い夫に気を使う、強さともろさを併せ持つ女性を好演。またひとつ、新しい演技の引き出しを手に入れたようだ。(取材・文/鈴木元、写真/堀弥生)

持ち前の明るさと笑顔を封印し、常に眉間にしわを寄せている麻生を初めて見た。34歳で管理職に抜てきされた聖子は、それを認めようとしない年下の部下・今井(要潤)とことごとく対立し怒りをあらわにする。今まで演じたことがない設定だけに、オファーに対しては喜びと不安が同居していたという。




「私がキャリアウーマンなんて、すごくビックリじゃないですか? うれしかったですけれど、やるとなると難しい役だということは想像できたんです。私はちょっとフワッとしているし声は甘ったるいし、ちょっと気を抜くと悪い意味でかわいい感じになっちゃうので。それは自覚しているから怖かったし、チャレンジでしたね」

29~36歳の親友4人がそれぞれの立場で仕事や恋に悩み、もがきながら生きる糧を見いだしていく多角的な視点で描かれる人間ドラマ。直木賞作家・奥田英朗氏の40万部を超える短編集が原作で、脚本には同世代として共感する部分が多かった。




「面白かったですよ。原作者の方が男性なのに、どうして女性の考えていることが分かるんだろうという内容でした。30代の女性がメインのお話は自分がちょうどそれくらいの年齢で、こういう作品があったら興味を持って見てみたいと思いましたね」

撮影は4人それぞれのエピソードに分けられたため、麻生のパートもかなり集中的に行われた。ほとんどのカットで深川栄洋監督によるマンツーマンの演技指導が繰り返され、緊張感あふれる現場だったと振り返る。




「けっこう気を張っていましたね。聖子の感情は想像しながら理解はできるんですけれど、息遣いで表現することなどを監督に細かく教えてもらいました。自宅のシーン以外では呼吸するのが苦しい感じでと言われていたので、息を吸ってばかりいて吐けないような。けっこう苦しかった(苦笑)」

深川監督の演出は、現役時代のノムさんこと野村克也氏よろしく“ささやき戦術”ともいえる独特のもの。それが1シーン1カットずつとなれば相当つらかっただろうとも思えるが、麻生にとっては望むところだったようだ。

「すごくこだわって撮られる監督で、1シーンずつ私にしか聞こえないような小さい声でぼそぼそっとしゃべってくれるんです(笑)。それが新鮮で、難しかったけれど監督とのお仕事はすごく楽しかった。さらっとあっさり終わるよりも、細かい演出を受けると役に対して考える時間が増えますし、悩むから結果的にはプラスになった気がします」





それが最大限に生かされたのが、聖子としてのクライマックス。大きな仕事を終えて帰宅し、夫の博樹(上地雄輔)に「奥さんの方がお給料が高いのはいや?」などと正直な気持ちを吐露するシーンだ。

「旦那さんに笑ってほしいと言われて、無理して笑う感じはよく分かると頭では理解しているのに、実際にやるとうまくできなくて何回もやり直したんですね。そして、でき上がった作品を見ると笑っている表情が良くて、リアルだなあと思いました。なんで監督は私よりも女心が分かるのかなという感じでした」

ひとつひとつのシーンを丁寧に積み重ねることによって少しずつ手応えをつかんでいった様子。それはクランクアップの際、「達成感がありました」と即答するところからもうかがえる。




「4人の話なので分散するし、ガッツリやった作品とは違うかなと思っていたんですけれど、いやあ、ちょっと泣けました。それが自分でも意外で、やっぱり楽しかったし充実していたんだと思いました。そこにいくまでが苦しくて、なかなかOKがもらないとハアアアッてなりますし、早く終わらないかなとはずっと思っていたんですけれど、終わったときは寂しかった。もうちょっと一緒にお仕事がしたかったです」

だが実は、深川監督の作品はこれまで見たことがなかったと告白。「ガール」への出演が決まる前に、親交のある宮﨑あおいから「神様のカルテ」に主演したときの印象などを聞いていたくらいだそう。では、その前評判と現実のギャップはあったのだろうか?

「演出に関しては聞いていた通りで、すごく素敵で好きだなあと思いましたよ。でも、あんなにおしゃれな監督だとは……見た目のイメージが全然違っていました(笑)。やさしいしゃべり方で、何かを持っていそうな人だなと思って、いつも自然に探っちゃっていましたね」

まあこれは余談としても、「ガール」の出演が麻生の可能性を広げたのは間違いない。さらにどん欲に、自らの領域を広げようという意識も強くなった。

「聖子役をいただけたのは、私にとって大きかった。キャリアウーマンはないよなあ、自分には似合わないって自分で決めていた。でも、やりたかったんですよ。今は、専門用語がばんばん出てくるような医者の役をやってみたいですね」




演技の引き出しが増えたかと問うと、「増えたかなあくらい」と控えめだが、これは「満足したら女優を辞めてしまうと思う」という信条からくる発言だろう。常に向上心を持ち、昨年来、「ロック わんこの島」での初の母親役、「モテキ」でのほれっぽいが薄幸系のOL、公開中の「宇宙兄弟」では凛(りん)とした宇宙飛行士候補生と多彩な顔を見せ続けている。

「今回も、すごく反省すべき点がいっぱいあるんですよ。もっとここをこうしたらということがたくさんあったから、それを踏まえてもうちょっと頑張っていきたいなと思います」

そして、5月7日に第一子となる女児を出産。かつて今村昌平監督に映画女優としての薫陶を受けた“ガール”は母親となり、新たな一歩を踏み出した。インタビューは安定期に入ったころだったため、「舞台挨拶にも立てないし、迷惑かけっ放しです」と恐縮していたが、これも映画は観客も含めすべてのスタッフ、キャストで成り立っていると考え、周囲への気遣いを忘れない麻生らしいところだ。

今ごろは“お姉ちゃん”のつぶあん(愛犬のトイプードル)ともども、にぎやかに育児に追われていることだろう。じっくりと英気を養い、また新たな一面をスクリーンで見せてくれることを期待し、復帰は気長に待ちたい。



http://eiga.com/movie/56764/interview/
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