「純喫茶磯辺」 ダメな面々 愛すべき人間模様

“女にモテたい”不純な動機で喫茶店を開いた男と、店に集まる人たちのひと夏の物語「純喫茶磯辺」。ゆるい笑いの中に、隠された別の顔がのぞく。監督の深い洞察力を感じた。

“女にモテたい”不純な動機で喫茶店を開いた男と、店に集まる人たちのひと夏の物語「純喫茶磯辺」。出演は俳優としても活躍する漫才コンビ「雨上がり決死隊」の宮迫博之。主人公の磯辺裕次郎を演じ、「蛇イチゴ」(02)以来6年ぶりの映画主演。裕次郎の娘・咲子には「ガチ☆ボーイ」の仲里依紗、「夕凪の街 桜の国」の麻生久美子がアルバイト美女・素子を演じる。監督は「机のなかみ」の吉田恵輔だ。

8年前に離婚して以来、高校生の一人娘・咲子と二人暮らしの中年メタボ親父・磯辺裕次郎。映画は裕次郎の朝の風景で幕を開ける。工事現場の朝礼で、まったくやる気のない裕次郎。別の日の朝。裕次郎と咲子の朝の風景が、2分割画面で対比させながら同時進行で映し出される。それぞれが歩いて職場と学校に向かう。ポップなテーマ曲でオープニングから気持ちいい。そんな中、父が亡くなったため多額の遺産が転がり込み、裕次郎はあっけなく仕事を辞めてしまう。ダメ人間の第一歩に踏み入った裕次郎が見たものは、喫茶店で美女にモテモテのマスターの姿だった。それを機に、彼は遺産を元手に喫茶店経営を始める──。

登場する人間たちは皆、どこか“ダメ”な要素を持っている。狂言回し的な主人公・裕次郎に始まり、バイトの素子や常連客。まともなのは咲子くらいだ。ポイントは咲子の存在だろう。しっかり者の娘は、時に裕次郎の妻代わり。父を叱咤し、客に人気の素子に焼きもちを焼く。演じる仲里依紗がいい。今時の高校生そのもので、全編通してふてくされているが、憧れの客の前では乙女に変身する。対する咲子のライバル・素子が物語のかなめ。店ではコスプレ衣装で客を惑わせ、美貌を武器に男を手玉に取る。裕次郎の心をもてあそび、常連客と肉体関係を持つ。今までのイメージとは異なる「男にだらしない女」を麻生久美子が好演している。濱田マリ演じる裕次郎の別れた妻・麦子、裕次郎、娘の微妙な関係もおかしい。
舞台となる喫茶店も、いかにもさびれた商店街にありそうだ。地元の人相手の店のつくりで、装飾には昭和の香りが漂う。くせ者ぞろいの常連客も面白い。斎藤洋介演じる「やたらと出身地を気にする客」は、同じセリフを反復して笑いを作る。ネットリとした嫌らしさを体現するダンカン、コーヒー1杯で何時間も粘るワケアリ作家の和田聰宏。マスターよりマスターらしい風貌のミッキー・カーチスは、台詞のない役を存在感たっぷりに演じている。監督の目は、常連客のキャラクター作りなど細部まで行き届いている。お笑いグループ「ハリセンボン」の近藤春菜が、喫茶店のバイト役で女優テビュー。愛すべきダメ人間を描いた作品だ。

 ゆるい笑いの中に、登場人物は隠された別の顔をのぞかせる。監督の深い洞察力を感じた。期待の新人・仲里依紗が起爆剤として物語を引き立て、旬の女優・麻生久美子がスパイスに。具合のいい人情劇に仕上がっている。

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「純喫茶磯辺」(2008年、日本)

監督・脚本:吉田恵輔
出演:宮迫博之、仲里依紗、麻生久美子、濱田マリ、近藤春菜(ハリセンボン)、ダンカン、和田聰宏、ミッキー・カーチス、斎藤洋介

7月、テアトル新宿、渋谷シネ・アミューズほかで全国公開。
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