【インタビュー】女優・麻生久美子 壁乗り越えた演技派

2008.1.19 08:01 MSN JAPAN

 悲劇のヒロインからコケティッシュなコメディエンヌまで。数々の映画やドラマでその芸達者ぶりを披露してきたが、「出演作を見て自分さえ知らない、まだ見たことのない新しい姿を発見し驚かされることがある」という。それが女優という仕事の魅力だと意識するようになったのは最近のこと。「自分の演技を枠にはめたくない。まだまだ女優としての可能性を広げたい」と言う。本人を驚かせる“未知の顔”がまだ彼女の内面にはあふれ出るほど潜んでいそうだ。

 19日から公開されるイラン・日本合作映画「ハーフェズ ペルシャの詩」も新しい演技の可能性を探りあて、自身を驚かせた作品の一つ。

 初の海外作品。監督はイランの重鎮、アボルファズル・ジャリリ。8年前、カンヌ国際映画祭の会場でジャリリ監督からこう声をかけられた。「いつか私の映画に出てほしい」。今村昌平監督の「カンゾー先生」を見て彼女の演技に惚れ込んだのだ。そして3年前、脚本が届く。が、彼女は自分の配役を見て驚いた。名前はナバート。父はイランの高名な宗教者、母はチベット人という役柄で「日本人以外の役は想像もしてなかったのに…」と明かす。少し悩んだが引き受けた。

 「ジャリリ監督が私との約束をずっと忘れずにいてくれたことがうれしくて。脚本も日本人が見ても楽しんでもらえる内容でしたし」

 イランで1カ月過ごした。ここで彼女は役作りのために今まで演じたことのない演技法を試みる。「芝居を一切しないと決めたんです」。日本人俳優は自分一人だけ。セリフもアラビア語とペルシャ語。ジタバタしても仕方ない。「これまでの女優としての経験をいったんリセットしようと決めたんです」


 なぜリセットを?

 理由は深刻だった。「私には女優という仕事が向いていないんじゃないかと悩みました。当時は自分の演技を見るのも嫌で…」。引退を本気で考えたという。そんな時期にジャリリ監督の映画化が決まりイランへ呼ばれた。彼の言葉は本当だった。「あなたの演技、女優としての存在感に惹かれた」。8年前、彼がかけてくれた言葉が、彼女を女優に踏みとどまらせる心の支えとなっていた。

 完成した作品の試写を2回見たという。「あれだけ自分の芝居が嫌で、これまでは試写も見なかったのに」と苦笑した。そして“芝居をしない”自分の新たな姿を発見し驚いた。「私はこんな表情もできるんだ」

 女優としての自信を取り戻す転機となった作品がもう1本ある。昨年公開された「夕凪の街 桜の国」(佐々部清監督)。第二次大戦中の広島で被爆、26歳の若さで亡くなる女性、皆実を演じた。「私にはこの役はできない」と悩み続け、演じることが怖くて仕方なかったという。だから撮影前に広島、長崎の慰霊碑の前で祈った。「私に力を貸してください」。見えない力に背中を押され、現場では麻生久美子ではなく皆実であり続けることができた。

 「ハーフェズ」とはまったく異なるアプローチで役作りに挑んだ結果、皆実の表情、動きはやはり自身を驚かせる。「こんな自分がまだ私の中にいるんだ」と。

 女優としての誇りや自信を取り戻した彼女はアグレッシブにこう言う。「新たな一面を引き出してくれる監督や共演者に会いたい。まだまだ知らない自分に出会いたいから」

 文 戸津井康之


 ≪話のおまけに≫

 ■冬こそ「あったかグッズ」

 「突然、あったかグッズに目覚めてしまって。いま凝っているんです」

 鞄(かばん)の中から取りだしたのは、おしゃれなグレーのストール。数年前にニューヨークで衝動買いしてしまったそうだが、「もう手放せないんです」という。

 広げてマントのように体を覆ったり、マフラーのように首に巻き付けたり、折りたためばこんなひざ掛けにも…。夢中で“実演”しながら、「何か私、テレビショッピングの説明をしているみたいですね?」と顔を赤らめた。が、間を置かず、次に取り出したのが手袋。「二重になっていて、これもあったかいんですよ」と、まず指の部分が切れた黒い手袋を着けた上に、もう1枚、ふつうの手袋を“重ね着”し、目の前にかざした。「本当に暖かくてお勧めなのよ」。聞いているうちに欲しくなってきた。

                   ◇

【プロフィル】麻生久美子

 あそう・くみこ 昭和53年、千葉県生まれ。平成7年、「BAD GUY BEACH」で映画女優デビュー。今村昌平監督の「カンゾー先生」(10年)のヒロイン役で、日本アカデミー賞最優秀助演女優賞などを受賞。カンヌ、プサンなど国際映画祭にも出品され国内外で注目される。映画で活躍する一方、平成18、19年に放送されたドラマ「時効警察」でのコミカルなキャラクターが人気を得て、活動の幅を広げる。昨年公開の主演作「夕凪の街 桜の国」で報知映画賞最優秀主演女優賞を受賞、現在、映画界が最も期待を寄せる女優の1人。「ハーフェズ」は19日から東京都写真美術館ホール(東京・恵比寿)などで公開。
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